2011年11月24日木曜日

精神医学-8 精神障害の診断と検査


1限 252 丸山晋(ルーテル学院大学教授) *8:59教室着


『精神医学入門』柄沢昭秀(中央法規出版;改訂版, 2006)


第Ⅳ章 精神障害の診断と検査(P42

精神障害の診断の進め方は一般的な医学診断の進め方とは異なるところがある。
身体的診察所見や検査結果などの客観的なデータは大事であるが、
何よりも重要なのは、患者や家族(身近な人たち)との面接を通して
患者の異常体験や行動の変化を的確に把握すること。
面接による診断」というのが大きな特徴。

診断=diagnosis
agnosisは、前回の「失認:agnosia」と同じ意味で、
「分かる、認める」ということをあらわす。接頭語のdi2つ、という事ですから、
diagnosisとは「あれかこれかの区別できる、識別できる」ということが言葉の意味です。


Ⅳ‐1  診断の進めかた

初回面接の際に必ず医者が聞くこと
①主訴:家族であれば家族の訴えを聞くという事ですね。
②起始・経過
③生活歴


Ⅳ‐2 面接と問診の重要性
内科の先生が胸を叩いて心音を診るのは「打診」
心音を聞くのは「聴診」
触って診るのは「触診」
とありますね。つまり五感を全て使うということですが、
その中の一つとしての「問診」です。
いろいろ工夫して聞く訳ですね。
同時に患者さんの態度、落ち着いているとか不安であるとか、
医者に対して抵抗的だとか、も見ていきます。
表情・姿勢・態度・行動というようなこと。

患者さんは時として嘘をつく、実際と違うことを言ったりもするので、
必要に応じて家族からの情報も聞くことになります。

・(本人の)体験の異常と行為の異常
 体験の異常幻覚、妄想、作為体験などの本人の主観的体験で
 他人がそれを直接知ることは出来ない。
 ただし体験面の異常がある場合、行動面にも何らかの異常が現れることが多い
 
 行動の異常たとえば無表情、無反応、無言、多弁多動、興奮、常同症などは
 他人が直接観察しうるもの。いわば客観的症状。

精神障害の有無とその内容を判断するためには、体験面の異常と行動面の異常の両方を十分把握しなければならない。本人の体験は本人との会話を通してしか知ることが出来ないから、まず本人との意思疎通をはかり、信頼関係をつくることが前提。
行動の異常はいつどこで現れるか分からない。態度や言動を注意深く観察すること、また身近な家族などからの情報が非常に重要。

P45の表6
面接時の観察点
1.表情、姿勢、態度、話し方、動作、行為について観察する
2.思考の進み方の異常は会話の状況から察知される
3.面接時の状態と普段の状態の違い

問診によって何を明らかにするか
1.本人の述べることから体験面の異常を知る
2.家族等の話から客観的な事実を把握するように努める
3.両者にギャップがある場合、その理由を考える
4.病状に関して客観的に把握すべきこと
 ①本人の言動や生活態度にいつ、どんな変化が現れたか
 ②思い当たる原因やきっかけがあるか
 ③その後の状態の変化
 ④最近はどんな状態にあるのか
5.本人に関する客観的情報で把握しておくべきこと
 ①胎児期を含め過去に重要な症病歴がなかったか
 ②血縁者や家族に重要な症病歴のある人、あった人はいないか
 ③本人の生活歴の概要。親子関係、夫婦関係など
 ④家族関係の概要。親子関係、夫婦関係など
 ⑤最近の生活環境。居住環境、学校や職場環境、人間関係など
 ⑥本人の元来のパーソナリティの特徴。その変化の有無など。


Ⅳ‐3 心理的検査

心理的検査はあくまで診断のための補助手段
自己記入式の質問紙法における質問項目と、問診におけるそれは一見類似しているが
結果には違いがある。つまり、心理的検査は「一方通行の応答であって問い返しがない」

主な心理的検査
Ⅳ‐31 知的機能検査(知的機能テスト)

ウェクスラー知能検査
長谷川式認知症スケール(HDS-R
Mini-Mental StateMMS
コース立方体組み合わせテスト(Kohs block design test)

Ⅳ‐32 パーソナリティ検査(性格検査)


Ⅳ‐321 質問紙法

MMPI:元々は兵隊の選抜用に開発されたものです。
   原法は550個の質問項目からなり実施に時間がかかる
矢田部‐ギルフォード性格検査:質問項目は120
モーズレイ性格検査:性格を内向性‐外向性と神経症傾向の2次元でとらえようとするもの。

Ⅳ‐322 投影法

ロールシャッハテスト:ポピュラー反応とは異なる、ある病気に特徴的な反応の仕方がある。
TATThematic Apperception Test)
P-Fスタディ(Picture-Frustration Study):絵画欲求不満テスト
文章完成テスト

Ⅳ‐323 診断的テスト/診断的スケール
(本来の意味から考えるとこのくくりだけを「診断的」というのはおかしいのですが)

精神作業検査:内田・クレペリン精神作業検査が有名
CMICornell Medical Index)
ベンダー・ゲシュタルト・テスト:9個の幾何学図形を模写。器質性精神障害の診断に利用
バウムテスト
精神状態評価尺度:不安尺度、よくうつ尺度、認知症関連評価尺度

一種類のテストで正確な診断をすることは、難しい
そのためテストバッテリー(テストの組み合わせ)として用いられる。

Ⅳ‐4 医学的検査

Ⅳ‐41 一般的診察と検査

Ⅳ‐42 精神障害と関係の深い特殊検査

Ⅳ‐421 脳の画像検査

XCTComputed Tomography)
一定方向の脳断面画像。
脳萎縮、脳室拡大、出血、梗塞、脳腫瘍などの形態的変化をみることができる。

MRI(磁気共鳴画像、Magnetic Resonance Imaging):
強力な磁場の中におかれた生体に高周波を加えた時に生ずる
磁気共鳴現象を利用した検査法
(共鳴:物理系が外部からの刺激で固有振動を始めること。
 特に刺激が固有振動数に近い振動数を持つ場合をさす。)
 *中村先生の言うレゾナンスって元はこういうことなのね。
SPECTMRIが写真とすると、SPECTは動画
PET

Ⅳ‐422 脳波検査
大脳の電気活動を頭皮上の電極を介して導出し、波形として示す脳機能検査法。

Ⅳ‐423 その他
髄液検査(髄膜炎、脳炎、神経梅毒、くも膜下出血など)
甲状腺ホルモンなどの内分泌検査(器質性精神障害)
血液成分検査(異常代謝産物、ビタミン欠乏など)
染色体検査
遺伝子検査などがある。

Ⅴ章 治療とケア

Ⅴ‐1 精神科治療の変遷
精神障害に対する特殊治療法は、向精神薬の発達によって近年の大きく変化した。
向精神薬の登場は1950年代の初めであるが、それまで精神科で使用される薬剤としては古典的な催眠鎮静剤(バルビチュレイト系薬)ぐらいしかなかった。統合失調症や躁病、うつ病に対する当時の主な治療は電撃療法とインスリン療法であり、精神外科(ロボトミー)が行われていた時期もあった。

最初に製品化された向精神薬はメプロバメイトとクロルプロマジンで、
 1950年代の中ごろにはわが国でも使用され始めた。
両者とも精神安定作用があるが催眠作用は軽いことが特徴。
(クロルプロマジンはもともとは麻酔薬として使用されていた)

当初はトランキライザー(静穏薬、精神安定剤)と呼ばれたが、
クロルプロマジンには統合失調症の諸症状に対する効果が認められた。
メプロバメイトは最初の抗不安薬、
クロルプロマジンは最初の抗精神病薬であるが、
その後まもなく、最初の抗うつ薬としてイミプラミンが登場した。
1960年ころから次々と新しい精神障害治療薬が開発され、広く使用されるようになった。

Ⅴ‐2 古典的治療法

Ⅴ‐21 発熱療法
かつて多かった進行麻痺(梅毒性脳疾患)に用いられた。
当初はマラリア患者の血液を移植するマラリア療法が行われたが、
(つまり人工的にマラリアによる脳炎を起こし、
その発熱によってウィルスを殺すことを目的としたもの。)
その後はチフスワクチンなどを静脈注射するワクチン発熱療法がよく行われた。
しかし、ペニシリンなどの抗生物質が有効であることが分かり
発熱療法は行われなくなった。
ワグナー・ホン・ヤウレッグはこの業績によりノーベル賞を受賞。

Ⅴ‐22 持続睡眠療法
睡眠薬の大量投与療法は1920年代には試みられていた。戦前の日本でもひろく使われていた。
1日の睡眠時間が十数時間になるように調節し、2週間程度持続した後減量する。
病気の症状を軽くすることを目的に、主に興奮性の患者やうつ病患者に対して行われた。

Ⅴ‐23 精神外科(ロボトミー)
脳にメスを入れる治療法で1930年代に始められた。
広く行われたのは前頭葉白質の神経線維を切る手術。
統合失調症や苦悶感の強いうつ病、強迫神経症などが主な対象。
述語に知能低下やパーソナリティ変化のみられることが稀ではない。

Ⅴ‐24 インスリン療法
多量のインスリン注射により低血糖性の意識混濁(昏睡)が起こる
その後、ブドウ糖注射(砂糖水を飲ませることも)で回復させる。
主として統合失調症に行われた治療法。

Ⅴ‐25 電撃療法
統合失調症とてんかんは拮抗関係にあるという仮説から、
けいれん療法が着想されたと言われている。初の実施は1935
電撃療法(ECT)は人為的にてんかんの全身痙攣発作を起こす治療である。
最近の電撃療法は全身麻酔で行われることが多い。(m-ECT)

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