2011年11月17日木曜日

精神医学‐7 主要な精神障害・神経症状2


1限 252 丸山晋(ルーテル学院大学教授) *904教室着


『精神医学入門』柄沢昭秀(中央法規出版;改訂版, 2006)
  
第Ⅲ章 主要な精神障害・神経症状(P29

Ⅲ‐3  自我意識の異常
自分がほかならぬ自分であると認識することを自我意識という。
自我意識の異常には
離人症作為体験多重パーソナリティ障害(自己同一性障害)の三つがある

・離人症:
自分が自分であるという実感が失われた状態。
自分の行動が自分の者という感じがしない。
神経症やうつ病、統合失調症などにみられる

・作為体験:
自分の思考や意思が誰かの力で左右されるという体験。「させられ体験」とも
例)電波で操られる、考えが抜き取られる(思考奪取)、考えが注入される(思考注入)
統合失調症に特徴的な症状の一つ
      
・多重パーソナリティ障害(自己同一性障害):
ときにより全く異なる複数のパーソナリティが交代して現れる状態
近似したものに憑依現象がある。(狐が憑いた、不動様が乗り移った)
多くの場合は心因性(解離性障害、ヒステリー)に生ずるもの

Ⅲ‐4 見当識障害

自己と周囲の関係についての正しい認識を見当識(orientation)
それが失われた状態を失見当識(disorientation)という。
地理的失見当、時間的失見当、人物誤認などがある。

脳障害に起因することが多い(脳外傷、脳血管障害、アルコール性脳障害)
心因性の場合もある。
失見当、強い記銘障害、作話の三障害が同時に現れるものをコルサコフ症候群という

Ⅲ‐5 思考の異常

Ⅲ‐51 思考内容の異常
ここで重要なのは、妄想(delusion強迫観念(obsessional idea)

妄想はいわば「誤った病的信念」。強固で説明を受け付けない。
本人に異常だという自覚も無い

・強迫観念は、本人が自分でも馬鹿らしいと思い、
考えまいといしても払いのけることが出来ず、繰り返し浮かんでくる観念。
妄想と違って本人自身がそのことを異常と感じて悩むのが普通
強迫行為(確認癖、手洗いの繰り返しなど)

作話とうそ、は違います。
作話とは、記憶の途切れ途切れの部分を自分でストーリーを作って埋めていくこと。
コルサコフ症候群が有名ですね。
思い出は加工される、というのは誰にもある作話的な傾向かもしれませんね

Ⅲ‐52 思考進行の異常

・思考奔逸(観念奔逸)
考えが次々にわき出てとめどがない。
流暢だが話が脱線しやすい。躁病でよくみられる

簡単に見られるのが酔ってハイになった状態はこうですよね。
ようするに締りがなくなっちゃうわけです。思考がコントロールできない状態。

思考滅裂(支離滅裂)
観念と観念につながりがないため何を言っているのか分からない
話に筋が認められなくなる。
このような状態を「言葉のサラダ(word salad)」ともいいます。
統合失調症の末期の人にはこれが認められますが。
しかし、最近はあまりこれがみられない。
良い薬が開発されて、分裂の状態がひどくなる人がすくなくなっている、と言える。

・思考迂遠:
話が甚だしく回りくどく、なかなか結論に達しない。
精神遅滞者、ある種のてんかん患者などの会話に多い。

・思考制止
思考奔逸の反対で、思考の流れが全体に緩慢ですすまない。
返事に大変時間がかかる。重いうつ病にみられる

・思考途絶
思考の流れが途中で急ブレーキがかかったように中断してしまう。
統合失調症でみられることがある。

・保続
一度ある観念(あるいは言葉)が生ずるとその観念が繰り返し現れてくる。
脳障害に多い。

Ⅲ‐6 記憶の異常

記憶―①記銘②保持③再生という3つのプロセス。

・ある程度の記憶障害は老化現象によくみられる。(再生の障害)
・病的な記憶障害は脳障害に起因するものが多い。とくに認知症
心因性のものもある
・「健忘」という語はほんらい「ある一定期間の出来事についての記憶喪失」
という意味だったが、場合によっては単なる記憶障害に対して用いられることもある。
・自分の過去をすべて忘れてしまう全生活史健忘はたいていの場合心因性と考えられている。

フェニールケトン症候群による代謝障害(酵素の不足)からの記憶障害もある。
この場合は足りない酵素を摂取することで進行を防げる。

Ⅲ‐7 知能の異常
知能とは記憶、学習、理解、判断、推理、計算、創造などを含む
包括的な精神能力のこと。
・精神遅滞(知的障害)
・認知症
に大別される。

通常知能の発達はカーブを描いて、だいたい二十歳前後でピークに達します。
精神遅滞はこのピークの高さが通常とはちがって低い。
認知症は若いころの発達はふつうだが、65歳くらいになって、急に知的水準が落ちる
どうかすると、精神遅滞よりも知能が程度が下がってしまうこともあります。

認知症は「脳細胞の脱落」のために起こるともいわれる。
医学用語としては痴呆と使いますが、精神分裂症を統合失調症と呼び変えたのと同じような理屈で
現在は認知症と言われるようになっている。
しかし、この認知症という語自体が病気をよく表していないんじゃないか、とも言われている。

Ⅲ‐71 精神遅滞(知的発達障害、知的障害 mental retardation)
知能が年齢相応に発達せずに低いレベルで停滞している状態。
以前は行政用語として精神薄弱とも言われましたが
差別的だという事で今は使われません。
法改正されて「知的障害」と呼ばれるようになった。


Ⅲ‐72  認知症(痴呆 dementia)
正常な発達を遂げた知能が、
その後に起こった慢性の脳障害のために異常に低下してしまった状態

2004年から認知症と呼ばれるようになった。
しかしこれは行政用語としての決定なので、
学術用語は必ずしもそれに拘束されない。
「痴呆」「ちほう」「デメンシア」が用いられることもある。
しかし最近では「認知症」が使われる傾向。

Ⅲ‐8  感情(気分)の異常
感情と気分は厳密には異なりますが、障害として言う場合はまとめられます。
喜怒哀楽、快不快、不安、緊張は自然の心理現象だが、
これといったきっかけもなしに起こり長く持続する場合
またはあるきっかけで起きた変化が強く長く続く場合は異常である。

・不安神経症における不安、
・うつ病による気分の落ち込み
・躁病における病的爽快
  病的爽快というのは、あまりに幸せすぎるという事で病気とされることです
  ほどほどがいいんです。多幸症(euphoria)とも

感情の変化は思考内容は言動に影響をあたえ、
また自律神経やホルモンを介して内臓機能にも影響を与える。

「質的に見て場面にそぐわない感情(気分)」
ということも障害と考えられる要素ですね。
嬉しくても悲しくても涙が出るような状態が極端になると、
感情失禁と言われます。
これは脳障害、とくに脳血管障害後遺症の人によくみられる。

Ⅲ‐9 欲求・意志・意欲の異常

Ⅲ‐91  本能的欲求の異常
食欲、性欲、睡眠欲の異常
摂食障害、性欲亢進、性的倒錯など。
自傷や自殺は自己保存欲求の異常 人間は生きていたいというのが普通だが-
リストカットは代表的ですが、
まぁ甘皮をむしったり、かさぶたを何回も剥いだりすることも一種の自傷です。

これは一種のサディズム(嗜虐性)じゃないかという考え方もあります。

*整形手術と自傷の関係
 ある種の整形手術は自傷と極めて近いのかもしれない。
 
Ⅲ‐92  精神運動興奮
意志・意欲の亢進または抑制力の減弱によって起こる。
落ち着きがない、多弁多動、錯乱状態など。
発達障害、躁病、統合失調症、心因反応、せん妄状態などで見られる。
異常行動がほとんど無意識的に突発することがある。(衝動行為)

まぁ興奮と言うだけでもわかるんだけれどね。
ADHDの子の精神的な状況は精神運動興奮と言える

Ⅲ‐93  精神運動減弱
上の興奮の反対です。寡言、寡動。
ようするにフリーズしたような状態。
うつ病や統合失調症で見られることが多い。

抑制が強く自発的な動きが無く、ほとんど外界の刺激に反応しない状態(昏迷)
統合失調症の場合は、昏迷状態から突如、衝動行動が起こることがある

Ⅲ‐94  その他の異常言動
常同症:同じ言葉や動作の無意味反復
拒絶症:他人の支持や要求をなんでも拒否
緘黙症・拒食症:自己の欲求の拒否といえる
反響症状:眼前の他人の言葉や動作を機械的にまねる
衒奇症(ひねくれ症):不自然でわざとらしい奇妙な表情や動作(しかめ面、とがり口)
*漫画家の山田花子

Ⅲ‐10 パーソナリティ(人格)の異常
ここは一番難しいところですね。人格とはなんぞや、ということになるので。
つまり定義が明瞭ではない。

人格を球に例えた場合、ある一部分がとがっている、
でこぼこなことが強調されていたり、
著しい偏りがあるとパーソナリティ障害と呼ばれます。

この状態と極端だが普通な人はどう違うのか、
あるいは違わないのか、とういことには延々とした議論があります。

一つの考え方としては、
「疾病・病気」と「異常・障害」と「正常・当たり前」
この間はある種のグレーゾーンな訳ですね。(くっきりと分かれる訳ではない)
人格障害は「病気」ではない訳ですね。異常パーソナリティ。
つまりパーソナリティの著しい偏り、極端な個性をパーソナリティ障害と呼んでいる。

また、傷病の結果としてのパーソナリティの異常な変化は異常パーソナリティとは異なる。

Ⅲ‐11 睡眠の異常
多くは睡眠のリズムが問題になったりしますね。
8時間睡眠、まぁ通常これくらいでしょうが
コアは4時間なんですね、
その前後に2時間ずつウトウトとした状態があって計8時間と。

生理的にというか、身体に悪くない状態を維持しようと思うなら
4時間は寝なくてはならない、と。
医者の異常の判断ラインはこの4時間がひとつありますね。

分類としては
・過眠
・不眠
・睡眠/覚醒リズムの障害(昼夜逆転)
・睡眠時異常現象(夢遊症、睡眠時無呼吸など)

Ⅲ‐12 脳障害に起因する行動の異常
脳の部分的障害によって、一見精神障害を思わせるような行動の異常が現れること
これは精神病による症状ではありませんが、現われとして似ている・同じものということです。

Ⅲ‐121 大脳皮質の部分的障害によるもの(神経学的巣症状) 
・失語(aphasia)
発声や聴覚には障害がないのに思うように話せなくなる。(運動性失語)
話を聞いても理解できなくなる(感覚性失語)

言語中枢の傷害によって起こる。失読、失書もある。
認知症と間違えられることがある。

・失行(apraxia)
四肢の運動に不自由は無いのに目的に適った行為が出来なくなる。
箸の使い方、衣服の着方など

・失認(agnosia)
見聞きしたものの意味が分からない、
音は聞こえるがそれが何の音か分からない、
目は見えるが見ている物が何かわからない、
誰の顔か識別できない、
体の部分の名称がわからない など

*なんか詩みたいだなー

Ⅲ‐122 錐体外路症状 
錐体外路系神経の傷害により筋緊張の異常や不随意運動が起こる
不自然な表情や行動のために精神障害と紛らわしことがある

・パーキンソニズム(parkinsonism)
表情が乏しく動作が緩慢、反応が鈍い、手が震えるなど
パーキンソン病にみられる症状だが、
抗精神病薬の副作用として極めてしばしばあらわれる

・ジスキネジア(dyskinesia)
主として顔面に現れる不随意運動。
よくみられるのは口を絶えずもぐもぐ動かす、舌を出したり入れたりするなど
抗精神病薬の副作用によることが多いが、
高齢者にも原因なしに現れることがある

*舌の感じは「プラスマイナス」の岩橋だなー

・ジストニア(dystonia)
筋の持続的な異常収縮のため不自然な表情や姿勢、体位を示す。
抗精神病薬の副作用としても起こる。
統合失調症の衒奇症のようにみえることがある。

*抗精神病薬を飲んで統合失調症っぽい症状が現れるってのはどういうことだ?
それが副作用なのか病気の症状なのかの区別がよく分かんないな。
来週聞いてみよう。

・アカシジア(akathisia)
 じっと座っていられない。すぐ立ち上がってしまう。
立って足踏みしたり、ちょっと歩くなど。
これも多くは抗精神病薬の副作用であるが、
精神障害による落ち着きのなさと間違えられて、
薬を増量され、症状を悪化させてしまうようなことが起こる。

*あー!そういうことか。
副作用で現れているものなのだから、薬が増えれば更に悪化すると。
薬の副作用と症状が似ているっていうのは本当に厄介そうだ。
これは見分けがつくものなのか?

・舞踏病性不随意運動(choreic movement)
奇妙な四肢の不随意運動。これも精神障害の異常行動と紛らわしい。






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