2011年10月5日水曜日

近世史との対話-2 ルネサンス論の変遷

4 151教室

*レジュメ配布

(復習)
ルネサンスとは何なのか。
14世紀から16世紀にかけてイタリアからヨーロッパの広い地域に拡大した文化的運動


一般的には、ルネサンス=再生、復興、そういった意味を持っている。
どこかに戻ろうそして再生させましょうという運動、がもともとの意味。
宗教改革もまた原点回帰ですよね、教会のあるべき姿に戻りましょう、と言う。
そういう意味で同時代の出来事だが、つながる部分がある。
それに関しては、ルネサンスと宗教改革は重要な古典的なテーマだが、
全部は話せないけれど、歴史的な出来事としての関わりを授業でもお話したいと。

で、この前もう一つ話した、いままでルネサンスはどういう歴史的位置付けだったか。
それがレジュメの2番です。
「新しい時代の始まり」としての歴史的意義の強調。
新しい、というのはつまり、中世に対して新しい時代の到来、ということ。

ヨーロッパ近代をもたらした初期段階。(近世自体は300年間)
この300年をひとつの時代として捉えようとしています。
そういった意味で、ルネサンスの近代における位置づけは大事。

欧州近代はどうしてもたらされたのですか?というのが土台にある大きな問題。
欧州近代とは-欧州が世界史の中心となる時代、
ということは私たちみんなにとって大きな問題。
(前回の「近代化とは?」のはなし)
近代の始まりはどこにあるのか?
近代の出発点としてのルネサンスの位置づけ。
(進歩をもたらした、というような意味)

歴史の流れと言うものをどうとらえるのか?
進歩として捉えるのか?という話になる。
進歩史観。啓蒙主義において出された話。あるいは発展史観
歴史を語る上での気をつけなければならない点で。
時代の「変化」を一概に「進歩」として扱って良いのか。
ピラミッドに比して現在の建築の文化は「進歩」と言えますか?という問題。
人間歴史、技術的にも進んでいる、医療の分野とか、それは、進歩と言えるが、
文化として全体的に常に人類は進歩しているといえるのか?
*ピラミッドと精神分析(人格心理学)
そういうものを作ろうとする精神性、ある時代に特有の。



そういうことで、一般的に強調される、
進歩、個性、人間性の解放、自由な感情表現、を進歩と一面的にとらえないで、
意味するところを丁寧に、
ルネサンス人はどのように捕らえていたのか、ということも

そういう話を今日は、この角度からもう一度話したいと思います。
今、話したような、ルネサンスの一般的評価が定まるまでの歴史、がある。
それをイントロダクションの後半としてお話したいと思います。

3.ルネサンス論の変遷

まず、ルネサンスという語についてみていきますが、
ある文化的な出来事としての潮流、とともに、近世の始まりとしての特定の時代を指す語になっていますね。
つまり、「時代概念としてのルネサンス
ですので、こうなると、
「時代概念としてのルネサンスはいかにして生まれたのか」ということが問題になる。

この前言いましたように、ルネッサンスという言葉は、今では英語として載っていますが、
大文字のRでね。時代概念をあらわす。(Renaissance)
しかし、ルネサンスというのは元々はフランス語だ、と言いましたよね。

では早速、
ルネサンスという概念の起源、をどこに求められるか。
これは必ず、この人の登場になります。

31ヴァザーリ『イタリア美術家列伝』

ジョルジオ・ヴァザーリ(151174Giorgio Vasari
ルネサンスの中心地、フィレンツェで活躍
イタリア・ルネサンス末期に活躍した人
【辞書】マニエリスム時代のイタリアの画家・建築家。ミケランジェロの弟子
メディチ家の宮廷に仕え、建築家としてはウフィッツィ宮、画家としてはパラッツォ・ベッキオ、バチカンのサーラ・レジーナおよびカンチェレリアの壁画を制作した。

この人の書いた書物『イタリア美術家列伝』
Le vite de'piu eccellenti architetti, pittori, et scultori itariani1550
(イタリアの指向なる画家、建築家、彫刻家の生涯)
つまり、ルネサンス期の美術家達の伝記。
なぜ、これが重要なのか。

この書物の中で使われている象徴的な言葉に、
「リナシタ」=(古代芸術の)再生・復活
彼が最初にこういう言い方をした。これは、ルネサンスの大本と見られているが、彼は時代概念としてこの語を使っているわけではなく「芸術様式」を表す語として使っている。
ここで彼が、自分たちの時代、ルネサンス期の芸術の特質をこう呼んだ、ということは
彼ら自身にとっても、自分たちのやっていることの本質は「再生・復活」にあると理解していた証拠。

ここには、ヴァザーリの歴史観があらわれている。
単なる芸術上の一様式という以上に。
なので、ルネサンスという語はまだ定着していないが「リナシタ」という語で、ルネサンスの本質が表れている
いまでもそう理解されているところの「新しい時代が始まっているルネサンス期」という考え方はヴァザーリにもあらわれている。

栄華を極めた、古代ローマの芸術は、(素晴らしいと思っているんですよね)
 蛮族によるローマ帝国の崩壊と共に失われた。(蛮族って?―ゲルマン民族、西ローマ帝国が崩壊した)
 特にキリスト教の熱狂的信仰は古代の素晴らしい芸術を破壊して、
 ゴシックという野蛮な建築を生み出すにいたり、
(ゴシック=ゴート族の、12世紀半ばくらいに北フランスを中心にして始まった。中世の芸術様式をヴァザーリは悪いものとして捉えている。ルネサンス人にとっての古代ローマは、高度な芸術をもった素晴らしい時代という認識。)
 1250年頃から、(ルネサンスの先駆け的な、ジョットとか)
 イタリアで、悪しきゴシックの古習がすてられて、古代ローマの美が再生されることとなった
(彼らにとっての自分たちの時代は、素晴らしい、と。彼が伝記を書こうとした人たちについて、彼らが古代伸びを再生させたんだよ、と。中世の衰退した悪しき時代から、芸術的堕落から救い出したんだよ、という見方)

そうしますと、前の時代とは全く違うという意味で「新しい時代」なんだよ、いう時代認識。
これはヴァザーリ個人の特殊な認識ではないのではないか。
まえに、中世を「中間の時代」とルネサンス人は認識した、と言いましたよね。
その時に、例として、ペトラルカが中世を何と呼んだかという話をしたかと思いますが
暗黒の時代」と。
ヴァザーリは16世紀の人ですね、ペトラルカは14世紀の人です。イタリア人
ですから、自分たちの時代は、暗黒から抜け出た時代だ、と。

しかしヴァザーリにおいては、まだルネサンスの語は時代概念を表しているわけではない


○ 32)時代概念としての「ルネサンス」概念への拡張

ルネサンスという語を時代概念として初めて使った、フランスの歴史家
ジュール・ミシュレー17981874
彼はどういう時代概念として使っていたのか。
この人があらわした『フランス史』全17巻、
その7巻『16世紀フランス史』このような巻には大体副題がつきますよね、
ここでその副題として、「ルネサンス」がつけられた。
16世紀フランスを取上げている、そこにルネサンス、ということは時代概念をあらわしている。

ただ、あれ?って思いません?
私たちの理解するルネサンスとは違う。

16世紀フランスの思想といえば?―啓蒙思想
啓蒙思想:18世紀あたりにフランスを中心に発展した一大思想で
進歩史観に則り、人間の理性の力で世界を理解できるし、発展進歩させていける、と。
理性の重視。合理的に判断できないものを退ける。中世は無知蒙昧な啓蒙されていない時代、となる。
そこから、脱出して-

ともかく、彼によって、
中世からの脱出、啓蒙されていない時代からの学芸復興という意味でルネサンスという語が使われた。
しかしながら、私たちが理解しているルネサンスという意味には至っていない


そこに至らせたのは、誰か?
ここで、非常に重要な人物、
ヤーコプ・ブルクハルト18181897Jakob Burchhardt

33)ブルクハルトによるルネサンス論の確立
ミシュレーよりやや後の時代の人。スイス人。
(小国から出てくる歴史家には面白い人が多い-大国に囲まれて生き抜いてきた歴史)
ドイツの大歴史家ランケ(ドイツ近代歴史学の祖)に師事して勉強したのち、バーゼルに戻ります。

彼は、現在、一般に通用しているルネサンス概念を定着させる。
『イタリア・ルネサンスの文化』(1860 Die Kultur der Renaissance in Italien
これはドイツ語でかかれた本です。
これ、なんでドイツ語を黒板に書いているかというと
(ドイツ語は必ず名詞が大文字からはじまるから、区別がつきやすいよ!)
このルネッサンスという部分はフランス語だがそのまま使っている。
そしてそのことがルネサンスの語を定着させた。

しかし、彼においてはその内実はミシュレーより拡張されている。
ここでブルクハルトがテーマにしていたのは、
14世紀から16世紀イタリアで発展した文化を全体的に考察」すること。
だいぶ私たちの理解に近いですよね。

彼の意味したところは「世界と人間の発見」の時代としてのイタリア・ルネサンス
14世紀~16世紀にイタリアで発展した文化=ルネサンス文化=「世界と人間の発見」の時代
一つの「時代の発見」としての意味。

では、世界と人間の発見、とはどういうことか。
古代の文化を復活させながら、これは基本ですよね、
しかし、それだけではない。
個人の持つ自由な発想と
(それまでの神ありき的世界観から離れ)現世の世俗的価値を認めながら
世界(人間を取り巻く外界、自然界)や人間そのものを積極的に探求した時代
これがつまり、「世界と人間の発見」
岸田秀の「対神恐怖」のはじまり

ですから、ここでブルクハルトが言いたかったのは、
中世を克服した新たな時代精神
個人・自由・世俗、これはみな中世では抑え込まれていた、と考えられる精神ですよね。

つまりまとめると、ルネサンスを「ヨーロッパ近代精神の出発点」と考えたのがブルクハルトだ、と。
このようにしてブルクハルトによってルネサンス論が確立されました、と。

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【復習-放送大学―ヨーロッパの歴史と文化9

人々がイタリアはすごいんだと感じたのは主には19世紀に、
もちろんルネサンス期にヴァザーリのような学者は考えていたようですし、
18世紀、フランスのヴォルテール、イタリアのルネサンス期を非常に素晴らしい、
世界の四大文化の一つだと。しかしほんとうに脚光を浴びたのは19世紀

ルネサンスという語は、ミシュレーがつかいはじめ、ブルクハルトが定着させて
1860年にブルックハルトは「イタリアルネサンスの文化」を書きました。これが非常に大きなインパクト。
ルネサンスが近代の始まりと強調し、
特色として、ユニバーサルマン(万能人)―ダ・ヴィンチ、の人がルネサンス期にあらわれた。
あるいは、個人主義が生まれた。近代の始まり。
この近代性の強調-ホイジンガーは「中世の秋」と捉えるべきだとか、
また、ルネサンスはもっと前にあった、というようなハースキンスの研究というように修正はありました。
幅広くみるとすると、近代の始まりか、中世の秋なのか、

次に、時代そのものを詳しく見ましょう。
●ルネサンスという時代
ルネサンスという時代、だいたい14世紀~17世紀半ばくらいまで。
あまり、はじまりとおわりは難しいですが、
しかしその盛期=1516世紀
(ここに16世紀の欧州地図)
色で塗ってあるところは、スペイン国王のカルロス1世の支配、神聖ローマ皇帝のカール5世の支配、
16世紀欧州は、強大なスペイン帝国、対抗して仏独、イタリアの一部、イングランド、さらには北欧スウェーデン、ロシア、というのが基本的な勢力分布。

で、このカール5、ルネサンス時代の一番重要な国王の一人。
彼の後のフェリペ2も重要ですが
フランスではフランソワ1世、英国ではヘンリー8世からエリザベス女王
基本的には大国を見た場合カール5世は重要。

・カール5世 (ティツィアーノ・ヴェッチェリオ)
非常に勇敢な騎士に憧れがあり、颯爽と勇ましい肖像
ルネサンス期、海外へ飛躍、宗教改革期。
彼の時代とひとつは考えられる。

詳しく更に見ると
この時代、いかに多様な出来事があって、中世を終わらせ近代が準備されたか。
・大航海時代-スペイン、ポルトガル、後には英蘭
大航海時代には11回に詳しく話しますが、
だいたい15世紀は、ポルトガルが西アフリカ沿岸を席巻。この頃から黒人奴隷をつかうようになる(奴隷貿易
1492年にはコロンブスがバハマ諸島上陸-スペイン
さらに、15世紀末にはバスコダガマが喜望峰通過-カリカットに到る
16世紀はじめにはマガリャンイス(マゼラン)の世界周航151922
その後、インカ、アステカが滅ぼされる
1543年には種子島にまで。
さらに大航海時代はイエズス会の布教とも関係している。
16001602年には英蘭が東インド会社の設立。

ということでルネサンス期は欧州が非欧州に眼を向けていった時代。
新しいところで富を得たい、という。
また、新たな自己認識を与えられたともいえる。
ですから、これは重要な出来事。

もうひとつ、もちろんルネサンス期にはイタリアの古典再生、研究
さらに新しい美術が生まれる。ギリシア・ローマ文化、教養が重要に
これが北ヨーロッパに拡がりを見せる。

さらに、人文主義のひろがり。ヒューマニズム
ペトラルカによる古典の発見、研究さらに教育
つまり古典の勉強が高い人格を持つのに重要だという考え。
非常に重要な研究者が次々に現れ、さらに古典を武器に、自らの時代を観察していく。
エラスムス、ラブレー、モンテーニュ。
ルネサンスを考える上では欠かせない人々が人文主義の名の元で生まれる。

さらに、宗教改革という重要な出来事がまさにルネサンス期に起こる。
・宗教改革年表
次回もっと詳しくやりますが。
14世紀辺りから、さまざまなカトリック教会への批判。
イングランドのウィクリフ、チェコのフス。
16世紀のはじめにルターの95か条の提題。非常に大規模なカトリック批判。免罪符への批判。
これは宗教家の間の論争のみならず、世俗の諸侯、国王を含めて巻き込んだ争いに。

さらに16世紀には、農民戦争が起こり、ジュネーブでは、カルヴァンの改革。
これは後にユグノーとなって、オランダやイングランド、フランスにやってくる。
さらにそういうプロテスタントに対し反(最近は対抗といいますが)宗教改革。
カトリックからの巻き返し。
これが1417世紀にかけて起きている。
こうした論争は政治を巻き込んで起こっていく。これが宗教改革の重要な点

ある意味では原点回帰の運動―ルネサンス、宗教改革に通ずる点。
聖書の翻訳―ナショナリズムをうむきっかけにもなる。
さらにこうした翻訳を普及させたのが活版印刷
知識が広がりを見せる時代

・グーテンベルク聖書
最初の活版印刷といっても、中を見ると、中世の羊皮紙に書かれたマニュスクリプト(写本)の体裁
頭文字は装飾文字。写本の通りに作っている。活字も写本の筆記体に倣う活字
このように、最初はグーテンベルク「聖書」の印刷だった。
聖書の普及が人々の宗教改革への親近感をもたらした。


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