2010年12月22日水曜日

死にたがりスージーの出ニルヴァナ記


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つぎの日も、つぎの日も、 ねこは、白いねこの ところへいって、
いいました。
「きみは まだ 1回も 生きおわって いないんだろ。」
白いねこは、
「そう。」
と いったきりでした。

『100万回生きたねこ』佐野洋子 作・絵(1977)




the Piggle: I’m shy.

Winnicott: I know when you are really shy, and that is when you want to tell me that you love me.

『The Piggle: An Account of the Psychoanalytic Treatment of a Little Girl』 D.W. Winnicott (1977)





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スージーは死にたがりの女の子。
「あたしが生きていても世界は何にも変わらない。
 あたしは自分のことなんて大嫌い」
スージーは死にたがりで、自分を知ってる女の子。
「生きている意味のある人っているわ。才能があったり、誰かを救えたり、誰かを幸せに出来たり。
 でもあたしにはそんな事できっこないの」
スージーは死にたがりで、自分を知ってる、でもちょっとこわがり。
「死ぬのは痛い。痛いのはイヤ、
 死ぬのは苦しい。苦しいのはイヤ、
 だけどそういうのがイヤだからって生きてるあたしはもっとイヤ!」

けれどスージーはそんな自分の気持ちを誰かに伝えたことはありません。
誰かがそれを聞いてくれると考えたこともありませんでした。






(スージーのわかりやすい、顔?バストショット?)









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死にたがりの女の子、スージーのお気に入りの時間は 自分がどんな風に死ぬかを考えている時。
いよいよ死ぬというその瞬間、息も絶え絶え、頭もぼんやり、だんだん身体も動かない、
最期にこれまで出会ったみんなのことを思い出します。
「きっとその時にはみんなのことを良い人だったと思えるはずだわ
そしてあたしはこれ以上無意味に生きなくて済む
あたしは死に感謝しながら死んでいくの」
スージーはおもわずうっとり。
スージーは自分のことが大嫌いだけど、死ぬことを考えている自分は少しだけ好きなのでした。

考えているばかりじゃなくて、スージーは努力だってしました。
出来れば病気にでもかかって美しく死ねるように、
痛いことや苦しいことにも少しは我慢ができるように。

お風呂上りに5分は裸で震えていましたし、
外から帰ってきても手は洗わずに、きれいにするのは食事の後。
お父さんの煙草も無理やり吸って
お母さんの睡眠薬もくすねてきては溜め込んで。
お姉ちゃんのカミソリで腕から血を流せるようにだってなったし
お兄ちゃんのロープを吊るす場所は、頑丈そうな納屋の梁に決めてます。

でもこんなことばかりしているから、お母さんからはいつも叱られるし、
みんなはスージーのことをおかしい子だと思っています。
そうしてついたあだ名は、不良のスージー、無鉄砲スージー、死にたがりのスージー


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そんなある年の12月。
スージーも家族と一緒にクリスマスのお祝い。
お父さんとお母さんはお決まりのように聞いてきます。
「今年はサンタクロースに何をお願いしたんだい?」
スージーは胸のなかで答えます。
「あたしがお願いしている事は毎年一つだけ。
『クリスマスの朝に死んでいること』。
なのに一度だってそれを聞いてもらえたこと無いわ」

けれど今年ばかりは違いました。
スージーがクリスマスの朝目覚めると、ふわふわ宙に浮き上がり、自分の姿を見下ろしています。
眠っているスージーの周りには、心配顔の家族がみんな集まっていて
そして白衣のお医者さんまで。
浮かんでいるスージーは皆の事を呼んでみたけど、誰一人として気がつきません。

お医者さんは眠っているスージーの顔をじっと覗き込み、それから静かに首を振りました。
お母さんはスージーの身体を揺すぶって、お父さんはそれを必死になだめています
いつもスージーをいじめていたお兄ちゃんまでしくしく泣き出してしまいました。

スージーはお芝居を見ているようでなんだか悲しい気持ちになってきました。
そしてその時ようやく気がついたのです。
そう、今年こそサンタクロースが願いを叶えてくれたことに。

「あたしはやっと死ねたのね。これで大嫌いな自分ともお別れ。
あたしの存在なんてちっちゃなものだけど、
それでもあたしが死んだ分だけ、世界も今より良い場所になるんだわ」

スージーは心のそこからホッとして、サンタクロースに深く深く感謝しました。





(サンタクロース怪物が物陰からクリスマスの典型的な有り様のみんなの姿をのぞいている。
 絵的には彼の一番サンタクロース的な部分
(帽子?鈴?プレゼントの袋?)と
 魔物的な鋭い眼光的なものの両方が見えている形。
 物陰にひそんでいるので、まだ体の全体像はうかがえない)




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するとその時、空がスージーに向かって大きく開き、上から声が聞こえてきました。
「スージー」
スージーが驚いて振り向くと
笑顔をうかべた、奇妙な大男がひとり立っています。

真っ赤な服に、大きな袋
「ひょっとして…、おじさんがサンタクロースなの?」

「ホーホーホー、驚いたかい?
 確かに君たちが知っているサンタクロースとはだいぶ姿が違うかもしれない。
 サンタクロースというのもわたしの本当の名ではない。
 ある人はニコラウス様と呼ぶし、ある人はサンタキュリオスと呼ぶ。
 まぁ好きに呼んでくれればいい。
 確かに私こそクリスマスの日に子どもたちへプレゼントを贈る者さ。
 スージー、君はわたしの愛する子、わたしのこころに叶う子だ。
 今年のクリスマスに願いを叶えられた世界一幸せな女の子はスージー、君だよ」

スージーはサンタクロースが何を言っているのかよく分かりませんでした。
けれどスージーの願いを叶えてくれたことは間違いないようです。
空からはスージーを祝福するかのようにたくさんの鳩が降りてきました。












(場所は、家の中ではないどこか中空的な所に変わっている。
      サンタクロースの全体像が分かる絵
 降ってくる鳩的な白っぽい鳥)



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スージーは丁寧にお辞儀をしてからお礼を言います。
「サンタクロースのおじさん、あたしの願いを叶えてくれてありがとう。
でも、一体ここはどこなのかしら。だって、あたしは死んじゃったのに…」

サンタクロースは何を考えているのか分からない笑顔のままで答えました。
「この場所に名前は無いんだ。どのみちそんなに長くいる場所ではないからね。
 まぁ言わば「死ぬ前」と「死んだ後」のあいだの場所さ。
 
 これから君は生まれ故郷を離れて私が示すところへ旅立つことになる。
 私は君を素晴らしいものにしてあげよう。
 君を好きになるものを幸せにしてあげるし、君を嫌うものを私は呪おう。
 世の中のすべてのものは君によって生まれ変わるんだ」

スージーは頭がクラクラしてきました。一体サンタクロースは何を言っているのでしょう。

「ちょっと待ってよ。私は願いが叶って死んだのよ。死んだらそれで終わりでしょう?
 それに誰かのことを幸せにしたくなんてないし、嫌いになりたくもないの。
 大っ嫌いな自分で生きていくのも もうたくさん。
 それなのに、「旅立つ」とか「生まれ変わる」ってどういうこと!?」

サンタクロースは深いため息をついてから、急に真顔になって怒鳴り始めました。
「スージー!君はどうやら自分でもよく分かっていないものを願ってしまったようだね。
 死ぬことを願うという事は、生きることを願っているということなんだ。
 大っ嫌いと大好きということも同じだし、幸せと不幸せだってそうだ」

そして今度は急にやさしい声色になってこう言いました。
「私のクリスマスプレゼントは死ぬことで全部ではない。
 君はここから旅立つんだ。そして私はその道を祝福することを約束しよう」

スージーは途方に暮れてしまいましたが、サンタクロースの言葉に従って旅立つことにしました。











(サンタクロースのアップ)



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さて、スージーの旅とは一体どのようなものだったのでしょうか。
それはサンタクロースの命じたものに生まれ変わって生きることでした。

最初に生まれ変わったのは若い男の家に置かれたテレビ。
男は仕事から帰ると真っ先にスージーのスイッチを入れて、
外で買ってきた食事を広げ、スージーの事をじっと見つめます。
男はスージーのことがとても好きでした。
けれどスージーは古くて小さなテレビである自分が
どうしてこの男に好かれているのかよく分かりませんでした。

もしスージーが人間だったら
「あんた毎日働いてるんだからテレビくらい買いかえたら!?」
そう男に言ってやりたいと思いましたが
テレビは話しかけることが出来ません。動くことも出来ません。
スージーは自分の気持ちを伝えることが出来ませんでした。

男はやがて若い女と結婚し、スージーを置いて去っていきました。
スージーはなんだかさみしい気もしましたが、またひとりに戻れてホッとしました。




(テレビスージー)











(木スージー)






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次にスージーが生まれ変わったのは、村一番の大きな木。
村人は皆スージーのことが大好きで、
いつも周りをきれいにしては、手を合わせて拝んでいきます。
スージーは自分が立っているだけなのに、どうして偉いひとのように扱われるのかよく分かりませんでした。
ある年その村は飢饉に見舞われました。村人は山の木を売って飢えをしのぐしかありません。
スージーは村に残された最後の木。
村人はスージーを切り倒すか、山を引き払うかの相談をしています。

もしスージーが人間だったら
「あたしのことなんてとっとと切っちゃえばいいのよ」
そう村人に言ってやりたいと思いましたが
木は話しかけることが出来ません。動くことも出来ません。
スージーは自分の気持ちを伝えることが出来ませんでした。

やがて村人はスージーを巡って争いをはじめました。
ある者は傷つき、ある者は殺され、村は荒れ果ててしまいました。
スージーはなんだか怖くなりましたが、またひとりに戻れてホッとしました。










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こうしてスージーは色々なものに生まれ変わっていきました。
スージーを好きな人がたくさんいました。
スージーを憎む人もたくさんいました。

スージーはそんな人たちに何か自分の気持ちを伝えたいと思いました。
スージーが人間だった頃にはそんな気持ちになったことはありませんでした。

けれど今のスージーは何も出来ません。
話しかけることも、怒ることも、笑顔を向けることも、喧嘩することも、遊ぶことも。

スージーは自分が小さな女の子だった頃のことを思い出しました。
もし次に人間に生まれ変わることが出来るなら
やりたいことがたくさんあるような気がしました。

















(画面真ん中に小さくスージー(の精神)が描かれている。
 何か、枠のようなものの中に押し込められているようなイメージ。
 その外側には世界の広がりとしての白い背景?)



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そしてまたある年のクリスマス。
サンタクロースがスージーのもとへやってきました。
最初に会ったときのように笑顔を浮かべてスージーを見つめています。

スージーは言いました。
「サンタクロースのおじさん、あたしのお願いをもう一度だけ聞いてもらいたいの。
 あたし…、もう一回人間になりたい」
サンタクロースが答えます。
「しかしスージー、君は自分のお願いで人間でいることをやめてしまった。
 もう一回人間になっても、またすぐに死にたくなるんじゃないかい?」

スージーは真っ赤になって下を向いてしまいました。
けれど何とか声を押し出すように言いました。
「そう…、なのかもしれない。またあたしは死にたくなるのかもしれないわ。
 でも、でも、あたしはあたしの思ったことを、感じたことを、
 誰かに伝えたい、誰かに聞いてほしい。そう思ったの。
 だから、もう一回、人間になりたい。」
スージーはサンタクロースを信じて言いました。

サンタクロースはその言葉をスージーの義と認めました。
「恐がらなくてもいいんだ、スージー。
 わたしは君を人間としての命から導き出したサンタクロース。
 わたしは君が再び人間に生まれ変わることを約束しよう」
スージーは尋ねました。
「サンタクロースのおじさん、わたしが人間に生まれ変わるってどうやったら分かるの?」
サンタクロースは言いました。
「君はあした目が覚めると一匹の毒蛇になっている。
三歳の牝牛と、三歳の牝山羊と、三歳の雄羊と、山鳩と、鳩の雛とを噛み殺し、わたしのもとに持ってきなさい」

スージーはそれらのものをみな噛み殺して持っていきました。
そうして日が沈みかけた頃、深い眠りに襲われました。

すると恐ろしいほどの暗闇がスージーを包み込みました。
どこからかあらわれたサンタクロースがスージーに言いました。
「よく覚えておきなさい。君はこれから命と肉体の輪を離れて過ごすことになる。
 そこは悩みも痛みも無い世界、一切の感覚が遮断された世界だ。
 そこで君は56億7千万年のあいだ自分自身の心に奴隷として仕え、苦しめられることになるだろう。
 しかしわたしは君が奴隷として仕えるその心を裁く。
 その後君はその世界を脱出するだろう。
 しかしその時には君が女の子として生れ落ちた世界である地球という場所は消えて無くなっている。
 君が再び地上に戻るのは私の造る全く新しい世界だ」

そして日が沈み、あたり一帯が暗闇に覆われた頃、突然、燃えさかる赤い星が通り過ぎました。
その日、サンタクロースはスージーと契約を結んで言いました。
「スージー、君が再び人間に生まれ変わることを約束しよう。
 そして私が造る新しい世界の土地を君に与える」




(テキストの段と段の間が斜めに開くように配置して『燃えさかる赤い星』
隕石、流れ星、ファイヤーボール的なやつ、が、斜めに走るような感じ?)  

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それから56億7千万年の間、スージーは待ちました。












































(心理学Ⅱ10月20日の『ストレスとメンタルヘルス1』で配布の
 「感覚遮断実験」(Heron, 1957)の図のスージー版を
右ページの中心くらいの位置?に程よい大きさで。

背景は真っ黒?夜空?
感覚遮断の中にいる感じ)




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サンタクロースが新しい世界の地と天を造ったとき、地上にはまだ木も草も生えていませんでした。
サンタクロースが地上に雨を降らせなかったからです。
また土を耕す人もいませんでした。
しかし、水が地下からわき出て、土の表面をすべて潤しました。
サンタクロースは、土(ミクロ)の塵で人間(ミロク)を形づくり、
その鼻に命の息を吹き入れて言いました。
「スージー、目覚めなさい。君は56億7千万年のときを経て
再び人間として地上に降り立った。君はもはやスージーではなく、ミロクと名乗りなさい。
あなたをこれから生まれるすべての人間の救い主とするからである」

サンタクロースは見るからに好ましく、食べるのにふさわしいものをもたらすあらゆる木を地に生やし
また、世界の中央には命の木と善悪の知識の木を生やしました。
サンタクロースはミロクに言いました。
「この世界の全部の木から取って食べるといい。ただし、善悪の知識の木からは、決して食べては駄目だよ。
 食べると必ず死んでしまう」



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こうしてスージーはミロクとして新たな世界に生まれ変わり、そこを耕し、守るようになりました。
スージー・ミロクは56億7千万年ぶりの地上での暮らしを心から楽しんでいました。
けれど一つだけ不満がありました。
「あたしが独りでいるんじゃ人間に生まれ変わった意味がないわ。
 誰か私に合う、助けてくれる人を造らなくっちゃ」

スージーは強く目をつぶって息を止めると、
わき腹に手を差し込んであばら骨の一部を抜き取りました。
そしてこのあばら骨でもうひとりの人間を造り上げ、
サンタクロースの真似をして鼻から息を吹き入れました。
「ついに、これこそ
 わたしの骨の骨、わたしの心の心よ。
 この子をなんと呼んだらいいかしら。
 そうね、プシュケと呼ぶのはどうかしら
 まさに、この子こそわたしの命なのだから」

こうしてスージー・ミロクが心から願っていた、もうひとりの人間プシュケが新しい世界に生まれました。



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 それからのスージーは何をするにもプシュケと一緒でした。
一緒に土を耕し、一緒に木の実を取り、一緒に眠りました。

そしてスージーはプシュケに色々なことを話しました。
「あたしがはじめて人間だった時は、まだ小さい女の子だったの
 その頃は死ぬことばかり考えていて、死ぬことを考えていないと生きていられなかった。でも、そうやって考えていることを誰かに話そうって思ったこともなかったの」
プシュケは
「そうなの」
と言いました。

「だから、いまこうしてあなたに話せることがとても嬉しいの」
プシュケは
「そうなの。それはわたしも嬉しい」
と言いました。

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そんなある日のこと、スージーとプシュケは善悪の知識の木が立っている場所を通りかかりました。

プシュケが言いました。
「わたしたち、この木の実を取って食べたことがあったかしら」
スージーは答えました。
「いいえ、この善悪の知識の木の実は取って食べてはいけないの、
 もしこの実を食べたなら死んでしまうとサンタクロースは言っていたわ。」
ふたりが木を見ていると、その実はいかにもおいしそうで、目を引き付け、これを食べると賢くなるように思われました。

プシュケは言いました。
「死んじゃうなんてきっとサンタクロースのウソよ。
スージーが食べないのならわたしが食べる」
そう言い終わると木に上り、実を2つ手にとって降りてきました。

スージーはプシュケがこの実に強くひきつけられていることがはっきりと分かりました。プシュケがそこまで思うのなら、一緒に食べたいとスージーは思います。
しかしサンタクロースの言ったことが本当ならば、実を食べた者は死んでしまいます。

いまこの新しい世界にいるスージーは以前の死にたがりスージーではありません。
しかしプシュケがもし死んでしまっても、生きていたいかどうかはよく分かりませんでした。

プシュケはたずねました。
「スージーも食べる?」
そして言い終えると、木の実を口元に持って行きました。

スージーはどうすれば良いか分かりません。
けれどゆっくり考える時間もありません。
スージーの頭の中では
自分が死にたいと思っていた時のこと、
自分の気持ちを伝えたくても伝えられなかった時のこと
プシュケと話ができて嬉しかったこと
サンタクロースと結んだ約束のことが
走馬灯のように頭の中を駆け巡っています。

「プシュケ、待って。あたしも食べるわ」


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こうして二人は善悪の知識の木の実を食べましたが、
二人が死ぬことはありませんでした。

しかし二人には大きな変化が起こっていました。
この実を食べたことによって二人はサンタクロースの存在を全く忘れてしまったのです。
サンタクロースの造った世界でサンタクロースの事を思い出せくなる、
何のために自分が今ここにいるのか、これからどこに行けばいいのか分からなくなってしまう
これが善悪の知識の木の実を食べた事による「死」の結末でした。
二人は自分が何かを忘れてしまったことすら気づいていませんでした。



しかし今日も二人は生きています。

ある日プシュケが言いました。
「スージー、あたしたちいつからここにいたんだっけ?ここにはもう飽きちゃったわ。
 どこでもいいけど、ここじゃないないどこかへ行こうよ」
スージーは浮かない顔で答えました。
「そうね、でもあたし達がどこかへ着いたとしたら、その「どこか」がまた「ここ」になってしまうんじゃないかしら。」

「そしたらまた一緒にどこかへ行けばいいじゃない。スージーはいっつも考えすぎなんだよ」
「でもあたし考えてないと死にたくなっちゃうんだもの」
「考えすぎるから死にたくなるんじゃないの?
 いいわ、とりあえずスージーが考えたことはあたしが全部聞くから、とりあえずどこかに向かって出発しよう、ね?」
「…うん。ありがとう。でも何だか恥ずかしい…」

死にたがりのスージーは、再び死にたがりの スージーに戻ってしまいました。
しかし横にはプシュケがいて、二人はここではないどこかへ向かって歩き始めます。
厚い雲間から、朝日が二人を見守るように、急きたてるように昇ってきました。
スージーは世界を昨日までとは少し違う場所のように感じていました。

預言されたミロクとしてすべての人間を救うことになる人、スージーのおはなし








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死にたがりスージーの出ニルヴァナ記

2010年12月22日