2011年9月16日金曜日

生理心理学レポート

W. Dement「The Effect of Dream Deprivation」のまとめ


◆とりあげた研究


◆目的

 デメントは、1950年代にアゼリンスキーらによって、人間はレム睡眠中に夢を見ることが発見されたことを受け、夢の基本的機能とその意義についての研究を行なった。本研究は「夢が部分的に、または完全に抑圧されたとしたら、人間にはどのような変化が起こるのか、また「夢は精神上あるいは生理上、必要なものだと考えるべきか」を明らかにすることを目的に行なわれた。

◆方法

実験には8人の被験者があつめられた。すべて男性、年齢は23歳から32だった。被験者はいつも眠る時間に実験室に来て、脳波パターンと目の運動を調べるための電極が頭皮と目の周りに取り付けられ後、睡眠をとった。被験者はこの実験期間中は、他の時間に眠らないようにと指示されているその間に夢を見ることを防ぐためである。

 実験の最初の数日間は、被験者にいつもどおり一晩中眠ってもらった。これは各被験者の通常の夢の量と全体的な睡眠パターンのベースラインを知るためである。

 次の段階では、被験者がレム睡眠に入るのを妨げた。その後数日間、電極から被験者がレム睡眠期に入ったことが分かる度に、被験者を目覚めさせた。被験者は再び眠る前に、数分間ベッドの上で起き上がり、しっかりと目覚めていることを示さなくてはならない。デメントは当初、鎮静剤を使用して夢を見ることを妨げようとしたが、薬が夢を見るパタンに大きな影響を与えすぎため、有効な結果を得ることができなかった。したがって、夢を見ることを妨げるために、一晩中、被験者がレム睡眠に入るたびに目覚めさせるという方法がとられた。

夢を見ることを妨げる期間が終わると、被験者は回復期間へと入る。被験者には中断無く眠ってもらうが、この期間の睡眠においても電極によ観察続けられ、夢を見た量も記録される

被験者は数日間の休み、再び睡眠中に目覚めさせられる実験を受けた。最初と同じ長さの期間各被験者が一晩あたりに目覚めさせられる回数も、最初の実験時とまったく同じにした。しかしこの期間は、夢を見ることは妨げられないように、被験者のレム睡眠が自然に終わった時点で目覚めさせた。

最後に、前回と同じ日数の回復期間を再び与えた。これは対照としての実験であり、研究結果が単に夜中に何度も起こされたために起こったのではないことを明らかにするためのものである

結果

    【参照:心理学を変えた40の研究(2007)】     

ベースライン期間中の平均睡眠時間は6時間50分、夢を見ていた時間は平均80分で、睡眠全体の19.5であった。

レム睡眠を妨げた最初の晩に被験者を目覚めさせた回数は722だった。しかし実験が進むにつれ、被験者を目覚めさせなくてはならない回数が増えていった。この期間の最終日の目覚めさせた回数は13回~30回であった。

また、幾晩か夢を見ることを妨げられた後、被験者が夢を見る時間増加した。表の項目4(回復期の夢見時間)の数値は回復期の最初の晩の数値である。この晩、夢を見ていた時間は平均して112分、全体の26.6である。デメントは、このうち2人の被験者はレム睡眠の時間がそれほど増えなかったと指摘している。この2人を除外して計算すると、夢を見ていた時間の平均は127分、29%となる。ベースライン期間の平均と比べるとおよそ50%の増加となる。また、ほとんどの被験者は、続く5日間の回復期間中引き続き高い数値を示したことが確認されている。

対照回復期においては、夢を見る時間88分、全体の20.1と、ベースライン期間からの増加は見られなかった。

最後に、8人の被験者に対して、レム睡眠が妨げられたことによって行動に変化が起きたかが調べられた。被験者全員が、レムを妨げた期間中、不安、いらいら、集中できないなどの症状を経験していた。被験者のうち5人は、その期間中に食欲が増したと訴え、このうち3人は、1.5kgから2.5kg体重が増加した。このような症状は対象回復期には全く見られなかった。


考察

デメントは以上の結果から、私たちには夢を見ることが必要であると仮の結論を出した。夢ることを妨げていくに従って、夢を見ようとする作用が起きる回数が増加したことと、夢を見る時間が増加したことに示されるように、人間には夢を見ようとする欲求があると考えられる

彼は更に、夢を見る時間の増加は数日にわたって見られ、妨げられた夢の時間分を補う結果になることを発見した。(これは、後にレムリバウンド効果と呼ばれるようになった。

◆感想

 この実験が行なわれた1960年と現在では、睡眠に関して知られていることに大きな差がある。しかし、本実験の結果に対して「人間には夢を見ることが必要である」と言いえるかには疑問があると感じた。人間の体は、レム睡眠を妨げるとそれを取り戻そうとするということからは、「人間にはレム睡眠が必要である」ということしか言えないのではないだろうか。(この時代には、レム睡眠は夢としか関連付けられていなかった、ということなのだろうか)現在であれば、レム睡眠中に脳内でより多くのタンパク質の合成が行なわれ、これと記憶のメカニズムが関係しているという観点からこの研究結果を解釈できると思われる。そのように考えると、当初デメントが目的とした「夢は精神上あるいは生理上、必要なものだと考えるべきか」を明らかにすることは技術的な難しさがあることに気づかされる。 

 
【参考文献】

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